コラム2

ムラヴィンスキーのショスタコーヴィチ交響曲第5番の録音について


 ショスタコーヴィチが作曲した交響曲第5番(ニ短調 作品47)の初演者であるムラヴィンスキーは、1937年の初演以来、ほぼすべての時期にわたって同曲を指揮していたため、世に残された録音もかなりの数にのぼっています。
 しかし、なにぶんソヴィエト時代の録音であるため、そのクオリティにばらつきがあります。ムラヴィンスキーのものに限ったことではありませんが、期待に胸をふくらませて購入したCDが鑑賞に堪えない録音であったときの落胆は、私もしばしば経験するところです。本稿は、そういった落胆を未然に防ぎたいとの思いから起こしました。
 ここでは、現在(新品・中古のいずれかの形で)入手することができる代表的なCDのうち私の手元にあるものについて、その録音状態を述べることにしましょう。

録音 レーベル 規格番号 楽章・タイム ステレオ 備考
不明 Russian Disc RD CD 11 180 14:41 04:53 13:19 10:53 録音状態は良くない
1965 11 24 DREAM LIFE DLCA7016 15:08 05:03 12:46 10:45 × モスクワ音楽院大ホールにおけるライブ
1966 Russian Disc RD CD 11 023 13:56 04:49 11:57 10:00 サルマノフ交響曲第2番とカップリング
1967 PRAGA
(harmonia mundi)
PR 7250085 14:38 05:00 12:27 10:20 1978年6月のウィーンライブと同一音源。コシュラー指揮のショス9がカップリング
1973 5 3 ALTUS ALT191 14:45 04:55 12:53 10:24 来日直前のライブ
1973 5 26 ALTUS ALT002 14:50 05:04 13:04 11:07 東京文化会館におけるライブ
1978 6 12,13 ビクター音楽産業(melodiya) VDC 1007 14:41 05:06 12:33 10:26 ウィーンにおけるライブ
1982 11 18 SCORA scoracd011 14:17 04:57 12:09 10:15 モスクワ音楽院大ホールにおけるライブ
1984 4 4 ビクター音楽産業(melodiya) VICC 40255 15:04 05:13 13:12 10:49 ”ムラヴィンスキーの真髄6”

 ※タイムに関しては、CDジャケット記載のものとプレイヤーにかけたときに表示されるものとが混在していますので、参考程度に考えてください。

 上に挙げたものは、すべてライブ録音です。
 この中でもっとも音がよいといえるのは、73年5月の東京文化会館におけるライブでしょう。NHKによる録音は破綻の見られないみごとなものですし、保存状態がよかったことも幸いでした。低音から高音までバランスが整っているため、ムラヴィンスキーの目指していた音、特に、彼がパートバランスをどのように取ろうとしていたかを知ることが可能です。
 東京文化会館ライブに準ずるのは、来日直前のレニングラードライブと、晩年の演奏である84年4月のライブです。とりわけ84年盤におけるノイズの少なさは、ムラヴィンスキーの残したライブ録音のなかでも一級でしょう。
 次に続くのは、78年6月のウィーンライブです。この演奏の録音については、こちらをご参照ください。
 また、66年の演奏は、この年代におけるソヴィエトでのライブ録音として相当に高いレベルにあります。音の鮮烈さという点では、78年ウィーンライブのビクター盤・PRAGA盤のいずれをも凌いでいます。弦も管もあまりに鮮やかな鳴りなので、「本当に66年の録音なのだろうか」と疑ってしまいます。惜しいことに2楽章冒頭の音量レベルがなぜか低くなっており、玉に瑕です。
 65年のモスクワ音楽院でのライブはモノラルですが、上等と言ってさしつかえありません。ステレオではないにもかかわらず音場に広がりがあるうえ、細かい音も綺麗に拾われているため、ステレオ録音と一瞬錯覚するほどです。プロデューサーの平林直哉さんとリマスタリングの熊田好容さんの力によるところが大きいものと思われます。
 Russian Discの録音日不明の演奏は、残念ながらおすすめできません。ステレオが不完全なうえ、4楽章を中心に、R側のみ音が出る状態と正常な状態(LR両側からきちんと音が出る状態)が数秒ごと交互に生じる部分があり、鑑賞に集中できないからです。なぜこのような録音になってしまったのか理由はわかりませんが、残念なことです。

 ここまでは単に録音状態についてのみ記しましたが、いずれ演奏についても触れたいと思います。